波の干渉と独立性: 実際は独立性が無い。互いに通り過ぎるのではなく、反射している。衝突して重なった時は、波では無くなる。

 

多くの書物には、2つの波が衝突すると、波は干渉するが、何もなかったかのように通り過ぎ、波には独立性が有ると書かれている。下左図の様に波高が異なる、波AB向かい合って移動しているとき、中央で衝突すると下中図の様に波高は波A,Bの合計となる。これを「重ね合わせの理」(又は「重合原理」)と呼ばれる。下図(3)の様に、衝突後高い波の形Aは左に、低い波の形Bは右に現れる。波A,Bが独立して通過したかの様に観測されるので、「波の独立性」と呼ぶ。波同士は衝突して干渉しても、干渉しないかの様に通り過ぎる。(下図をクリックするとアニメーションが見られます。)

(1)   (2)  (3)

あえて「波の形」と言ったが、観測しているのは形だけで、誰が見ても確かに形はそうだが、波ABの持つエネルギーは通過しているのであろうか?また、中央の高い状態は、波なのであろうか?

 波はその形は測定できるが、その中で何が起きているかは、測定できない。例えば、音(可聴音、超音波、弾性波など)は、ある部分の圧力は測れるが、音の運動は測れない。圧電素子やマイクなど音の検出器は圧力しか測定出来ない。地震でも表面の運動を測れるが、地下での運動が測定できない。それも周波数帯域が限られている。一般的地震計では家屋の良く揺れる周波数程度が下限で、高層ビルの揺れ相当の地震波は別の機器使わないと測れない。、群盲象を評すしかできないので、波に関しては、物理的実態を全部把握できていない。

 波形を分析する手段にフーリエ分析があり、逆に周波数成分から波形を再現できる。しかし物理的にはこれは正しくない。フーリエ分析は波形に関する理論で、エネルギーを持った物理現象には適応できない。波形と言うのは曲者である。なお、波形は実態を持たないので、情報と呼ぶ人もいる。

 単に「波」と言うと、その形もエネルギーも全てを含むと解釈できる。

まず、エネルギー保存則が成り立たない様に見える正(凸)の波と負()の波の場合を見てみよう。

下図(1)の様に正と負の波が中央で衝突すると(2)の様に無くなり、その後(3)の様に何も無かったかのように現れる。一見通過した様に思える。が(2)中央では波が無くなっている。何もないのに波が表れるのは、「波の形」=「エネルギー」と考えると、エネルギー保存則に反する。ありえない事だ。実際に水面に凸と凹の波を作り、重なった場合、確かに同じ現象がみられる。凸波は水を押すと発生し、凹の波は水を引くと発生する。同じ高さと深さにするのは難しいが何回か試すと上手く行くことがある。

(1)(2)(3)

 凸と凹の波が重なってゼロになるのは感覚的には、「重ね合わせの理」で分かるが、そうすると凸と凹の波の持っていたエネルギーが瞬間無くなったように見えるが、どう考えたらよいのであろう。

 

光学でもそうだが、昔正しいと思われていた理論が必ずしも正しくない。光は波として考えられていたが、光子として考えないと不味い現象が増え、現在は波の様には干渉しない光子と成っている。光子が干渉しないので、干渉現象は無い。光子が干渉(相互作用)するのは、電子(正確には電荷)だけである。従って太陽光が干渉しあって暗くなる事もない。それぞれの光子の位相が異なるので、太陽光は干渉しないので明るく見えるなど、半世紀前は証拠もない説明をされていた。今でも一部の書物にはそう書かれている。書かれたものに、説明が有っても、エビデンス(証拠)が無い場合は注意が必要だ。「エネルギー保存則」から考えると、光子と言うエネルギーが干渉して無くなる事自体間違いなのである。干渉して無くなる事は無い。現代物理の解釈では干渉して弱くなると考えられる方向に、光子は行かず、他の方向に行く。ハーフミラーを使った干渉計で、一方向を干渉させて光の強度を弱くすると、その弱くなった分、他の方向の強度が増す。反射を抑える為、コーティングしたレンズでは、コーティングにより反射が減った分、透過が増える。エネルギー保存則が成り立っている。その模式を図@(従来の考え)とA(現在の考え)に示す。乾燥して消えたと言うのは間違いとなる。

 

 凸と凹の波の衝突も、エネルギーは見えず、単に形を見ている。(1)(2)(3)の何れでも、エネルギー保存則から、同じエネルギーが有るはずである。

 

波は、ポテンシャル・エネルギーと運動エネルギーを相互変換しながら伝わる現象で、我々が波と言っているのは目に見える部分、即ちポテンシャル・エネルギーに相当する部分の形を見て、波と言っている。さざ波の場合、表面張力(ポテンシャル・エネルギー)と水分子の運動(運動エネルギー)が相互変換して、形が移動する。通常の水の波の場合は、高さ(水頭、位置)エネルギーと水分子の運動エネルギーを相互変換しながら移動する。音(可聴音、超音波、地震波、弾性波含む縦波)の場合、圧力(ポテンシャル・エネルギー)と各粒子の運動(粒子速度と呼ぶ)のエネルギーが相互変換しながら伝搬する。エネルギーの相互変換をする事により、エネルギーの保存則が守られている。なお、固体の場合、せん断応力(ポテンシャル・エネルギー)と粒子速度により伝わる横波(地震ではS波と呼ぶ)がある。挙動の説明が煩雑になるので、以下では横波は無視する。

図面20エコー回路音の伝播を目視で観測したければ、高校の物理実験屋にある、「波動実験用の弦巻バネ」が一番良い。鶴巻バネはその音速が頗る小さいので、音(波)の伝播現象を目視で観測できる。半世紀前、ベンチャーズやビートルズが活躍していたころ、ギターアンプの中にこの弦巻バネが入っていた。これを使って、エコー回路が作られた。鶴巻バネの両側にスピーカとマイク相当を接触させ、弦巻バネの伝播時間相当の遅延した音と、その多重音が作れ、マイクの出力は大きなコンサートホールの残響(エコー)を模擬できる。弦巻バネは確かに音を伝えている。

 

原稿案#2衝撃実験装置BallanceBallビリヤードの玉を沢山並べて、片端に玉を当てると、反対側の玉が飛び出す。似たようなものが、ニュートンの時代に衝撃弾性装置(右写真、十数年前までバランスボールの名称で玩具として売られていた。今は運動具の名前がバランスボ―ルと呼ばれる)と呼ばれ、研究に使われていた。端に二個の玉を当てると、反対から二個の弾が飛び出す。三個当てると、三個が飛び出す。丸いベアリングの玉を百個も並べ、端っこにベアリングを当てると、反対側の玉が一個飛び出す。当ててから、飛び出すまでの時間は、何も運動等のエネルギーが無い様に、事実上止まってるかの様に観測される。

ビリヤードの玉、衝撃実験装置も、玉の質量が持つ慣性力が、片端から他方の端に、順序良く伝わると考えられ、玉と玉の間では、目には見えない様な小さな歪、即ち弾性力が発生している。玉の間では、慣性力と弾性力のエネルギーが交互変換して伝播すると考えられる。ベアリング鋼の場合ヤング率が高く、破断寸前で歪が0.1%程度。実用はその1/10以下で1mでも0.1oに満たない。目には見えないが、確実に歪んでいる。さもないと力は伝わらない。

弾性力学のよると、個々の玉内では弾性波(音)のエネルギーが伝搬していることが判っている。当てから、反対側が飛び出すまでの時間は{ベアリング径}÷{ベアリング内の平均音速}×{ベアリング数+2}で求まる。ベアリングを1m並べた場合1/400秒程度なので、高速カメラで観測できる。音速の遅いスーパーボールを並べるともっと時間がかかるので目視などで観測できるかと期待するが、音が減衰しないと言われるスーパーボールでも、沢山並べると全体の減衰が大きく上手く観測できない。

音は慣性力と弾性力が相互変換して伝わるが、モデルは質量のある玉とバネの組み合わせの図となる。物質を構成する原子や粒界も同様に考えられる。@は単に質量とバネが繋がった状態で、左端の質量に力が加わると加速され速さVを持って移動しA、その移動により右隣りのバネが縮み、持っていた運動量がバネに歪を与え速さゼロとなるB。バネはその隣の....と伝わって行く。これが音の伝播である。音の伝播により各点(質点と呼ばれる)の位置(変位と呼ばれ)が変化するので、音を歪波と呼ぶことも有る。

この伝わる実態を弾性波とよび、現在では弾性波、可聴音、超音波など全て同じ音の仲間と成っている。また、弾性波は動力学の分野での呼び方で、弾性波は力を伝える。ハンマーで長い杭を打つ時、ハンマーからの弾性波(音)が杭を伝わり、杭の先端を前に移動させる。

弾性波を含む音の伝播は、解析的には波動方程式を使って解けるが、波動方程式は前図の質量の慣性力=ニュートンの法則とバネのフックの法則から差分方程式の極限式として導く。この辺は1970年頃からの音、波動関係専門書に詳しく書かれている。

 

図面18 弦巻バネの音伝搬1目視でそこそこ観測できる弦巻バネの話に戻す。弦巻バネは質量とバネを連続的に持った、前述の玉を沢山並べた構造を柔らかく(音速を遅く)しただけで、本質的に同じ物理的構造である。

弦巻バネの中央を抓んで放すと、図の様に両側に歪んだ部分が両側に伝わる。最初に抓んで歪ませた寸法をΔとすると、両方の伝播する波の歪み量は、それぞれΔ/2になる。バネの静的歪エネルギーは歪の二乗に比例するので、

EpKΔ2(初期) ≠ 2×K(Δ/22KΔ2 /2(波)

と両方の波の合計は半分に成って、半分が無くなってしまう。(なお、大気圧下の微小音などは近似的に歪の二乗では無く一乗に比例する。話が難しくなるのでここでは記載しない。)単なる歪では動かない。伝わるには運動エネルギー(慣性力)が必要である。歪によるエネルギーと同じ量の運動エネルギーを持ち、相互変換しながら伝わっていく。相互変換するので、同じ量でないと不味い。抓んで、静的圧力を作って、それを放すと音(波)に変化して伝搬していくわけである。最初に抓んだ状態は、音では無く、あくまで静的歪、静圧である。

 歪は圧力に比例するので、歪=圧と考えて良い。

 静歪が音に変わる状況を細かく弦巻バネで観測すると、最初に歪んでいる部分全体が同時に伸びるのではなく、端から順序良く伸びて、最後に中央が伸びる。図@~Bの中央付近では、どの部分も同じ圧力(図ではP)で、動くことができない。端は、その外側に圧力が無いので、動くことができ、圧力を弱めながら移動し波となる。その様子を図@〜Dで示す。図は、BからCの間は省略している。

次に、中央でなく弦巻バネの両端を抓んで同時に放すと、両端から波が中央に向かって伝搬し、中央で衝突する。その様子を下の図E〜Iに示す。@〜Dの逆の運動をする事が分かる。波が衝突すると、中央部付近がバネのピッチが狭くなり、即ち圧力が上がり、波が進むにつれて、ピッチの狭い部分が増えてくる。高い圧力の部分が増えてくるのである。Iの後は@と同じ状態になりAB...となる。

 波の衝突後は、バネ中央を抓んで波を発生した状況と同じであり、左右からの波が衝突した時、@の状態が瞬時起きると言う事である。@は波でなく、単なるバネを抓んだ、静的圧力である。

 正(凸)と正(凸)の波の衝突の際に、波が波のままで居ると思っているのが間違いで、波→静圧→波と変化しているのである。

両方が完全に重なった@以外の2つの波が離れていない場合では、一部が波で、残りは波では無くなっている。

月刊「検査技術」#33 波紋図で静圧のある@~BやG~Iの場合、圧力の部分は静止していて、釣り合いの取れている状態である。即ち衝突に際し、波のエネルギーは通り過ぎているのではない。反射しているのである。これらの図に中央線を引き、その片側を隠して見ると、反射していると考えても特に問題ない。右側半分は右からきて右に反射し、左半分は左からきて左に反射する。中央は左右釣り合いが取れているので、そのまま移動しない。

 

 洗面器で作れるさざ波の波紋を見てみよう。図@の波紋の干渉で、中央に縦線X-Xを引き、素の線から片側半分隠すと、ABの様に、反射している図となる。波紋全体を見て通過していると判断するのは、単に人の錯覚である。

 

岸壁に打ち付ける波を観測すると図となる。波が岸壁に向かって行って@岸壁に当たると概略倍の高さになるA。その後、波は戻っていくB。岸壁の両側が海の場合を考えよう。左右から同時に同じ高さの波が来た状態を想像するC、同じ高さでは両方の波の圧力はP1~P3と何処でもおなじである。

岸壁を薄いビニールにしても、岸壁は動かない。洗面器などの水でも確認できる。それぞれの波が反射すると考えられる。海の波の衝突を、反射と考えても何の矛盾は起きないし、その方が現象をより正しく説明できる。何もなかったかのように通り過ぎると考えるのより良い。

左右の波の高さが異なる場合の、反射透過の状況を図に示す。左右の高さの異なるAB波の場合は、左右の波の同じ量の部分が静圧になり反射し、差分はそのまま波として伝搬すると考えれば問題ない。実際に固体には高い残留歪(内部応力)が存在し、その上を弱い音の波が伝わっている。静圧は波では無いのである。

以上で、一般に知られる「波の独立性」は間違いと判る。また2つの波が衝突する時、通り過ぎているのではなく、小さい方の波の相当分は反射している。

 

 見えない運動部分を見る為、最近はコンピュータによるシミュレーションが使われる。

前述の様に、鶴巻バネは、ポテンシャル・エネルギーに相当するバネとしての「フックの法則」と、運動エネルギーに相当するバネ各部の質量が「ニュートンの法則」により運動している。この2つの原理で音の伝播方程式、即ち「波動方程式」が導かれる。同じ2つの原理をそのまま使っての弾性波(音)シミュレーションが広く行われていて、その結果を以下に示す。この方法で、通常は観測できないエネルギーの全てを観測できる。冒頭の2つの波の衝突の場合のシミュレーション結果を最初に示す。(下図をクリックするとアニメーションが見られます。)

(1) (2) (3)

(1)の様に左右ABの波は波の形(ポテンシャル・エネルギー相当)相当を緑色の線で圧力を、赤茶色の線で運動エネルギー相当の粒子速度を示す。波は圧力と運動のエネルギーを相互変換するので、当然同じエネルギー量である。圧力と粒子速度は単位が異なり、大きさが異なるが、図ではエネルギーとして同じであることを示す為、圧力と運動量の絶対値が同じになるよう正規化してある。上下にグラフが離れると左右の関係が分かりにくいので上下少しずらして両方の波形を表示している。

 正の圧力の波の場合、粒子速度が正なら右に移動し、粒子速度が負なら左に移動する。

 波Aは波B1.5倍の高さにしてある。衝突して重なると、B2.5倍の高さとなる。この時、粒子の運動はB0.5倍、即ち波ABの差分しかない。波として運動しているのは、波ABの差の分だけが、中央を通過している。B2倍分は一瞬だが静止しているのである。

 この波の形は滑らかで、弦巻バネの話の様に、大きく変化する点(屈曲点)がないので、現象をはっきり認識できないので、屈曲点即ちマーカの有る波形=台形場合を以下に示す。両側の波は同じ振幅とする。

(1) (2) (3) (4) (5)

少し衝突した状態(2)図で、中央は運動が無い。左右の波の相互作用が無いと言う事である。その範囲は(3)で広がり、(4)で最大になり、運動は一切無い、静的な状態=静圧となる。各図の左半分だけ見れば、海の波の場合護岸に波がぶつかった話と同じである。後は(5)の様に高い波高(ポテンシャル・エネルギー)が両端から運動エネルギーを持った波に変化し、戻っていく。

 

ここで正と負の音の衝突の場合を見てみよう。水の波も同様である。前図同様、緑線で圧力、赤茶線で粒子運動を示す。

波の移動方向と音(波)の移動方向との関係は分かり難い。砂遊びを思い出すと分かりやすい。ただし、粘性が高いので、形が自ら進まない。

砂遊びで砂山を移動する際、山の後ろ斜面の砂を前面斜面に持って行くと、砂山は前に動く。砂の移動と砂山の形(波)の移動は一致する。

砂の凹みのばあい、斜面を削って、他方の斜面に負荷すると、削った面側に移動する。即ち砂の移動と砂谷の形(波)の移動とは逆となる。図の場合、音圧と粒子速度が同じ符号だと右に、異符号だと左に移動する様に描いている。(正の粒子速度は右向きの速度としている)
(下図をクリックするとアニメーションが見られます。)

(1)(2)(3)

中央で圧力が無なり、水の波では平面となり、粒子速度のみになる。粒子速度のみ、即ち移動のみでどうなるかは砂遊びでイメージを掴もう。砂を均して、平らな砂面とし、一部を水平移動したら、その前に凸山、後に凹谷ができる。波も同じである。残

2019/9/15 Y.U.